正直な男と女

彼に抱きしめられると

ああここが私の居場所なんだと

その温もりに安堵する

 

夜目が覚めるたび

彼に抱きついてまた眠りにつく

 

そうして次の日の朝は時間など気にせずに

狭い部屋の中でグダグダと

午前中の至福のときを過ごす

 

吉元由美の『魂の音符』には私が恐れていること全てが描かれていた

昨日までの安息は、一つの過ちによって永遠に消え去ってしまう

 

嘘のつけない者同士

信頼の上で成り立っていたからこそ

愛し合っていた二人

 

いつまでも彼といるのだと

運命だとまでは言わないけれど

ほぼ確実に信じていた

 

一つの過ちが正直すぎる二人を別つまで

 

男が昔の女と寝た

そのことをアリサは“彼はそんなことするはずがない”と思っていたからこそ冗談半分で質問し

それによって知ることになる

男は嘘をつかず、聞かれた通り正直に答えた

アリサは「それならば嘘をついて欲しかった」と嘆く

男も嘘をつけなかったことを後悔する

何度謝ってもアリサの心は決まっていた

「愛しているからこそ、それを知ったからには一緒にいられない」

 

”だってこんなに好きなんだもの。彼を見ているだけでも、私の胸は張り裂けそうになる。だけど彼と一緒にいて安らげる気持ちと、どうしようもなく悲しくなる気持ちと、そのバランスが崩れてしまったのだ。だからもうふたりではいられないと思う。”(「魂の音符」吉元由美『嘘なら優しく』)

 

正直すぎる女と男は一つの過ちを受け入れられない

それはちょうど私たちも同じだと思った

 

私はもし彼ではない誰かと一晩を共にしたら

きっと嘘をつけずに正直に話すだろう

 

お酒が回って、一瞬目の前の男性に体を委ねそうになる

しかし自分が嘘をつけない性格だということを知っているから

この一線を越えたら彼とは終わるとはっきりわかる

そして一瞬でもその思考になったことを責め立てる

 

逆も然り

もし彼が他の女と寝、それを私が知ったのならば

私はアリサと同じように彼を愛しているからこそ

それを許せないだろう

 

正直すぎる男女は

過ちさえ犯さなければ

昨日までのように一緒に寝て映画を見て

午前中ののんびりした時間を

永遠に過ごすことができる

 

しかし一つの過ちで

何もかも崩れ去ってゆくのだ

 

本の中の悲しいほどに切ない

愛し合っている二人の別れが

私たちと重なる

 

そうならないためには

彼に甘えてはいけない

当たり前のことだけれど

愛する人を傷つけてはいけないのだ

 

私の周りには

平気で彼女を欺いている男が何人かいる

到底理解できないその思考に悩ませられながら

彼らから距離をとってゆく

彼女たちは知っているのかしら

 

自分には関係のないことだけれど

彼女の気持ちを考えたら

吐きたいほど苦しい

私には関係ないことだけれど

 

しかし自分が当事者になることだって大いにあり得るのだ

特に私のように恋多き女と自分の悪いところを自覚しているやつは

心に刻んでおかなければならない

 

何度その誘惑に耐えてきただろう

酒でかき回された頭でその誘惑に負けそうになりながら、一方とても冷たい目で眺めている私がいた

その度に「あんな男のために彼を失わなくてよかった」と

その冷たい自分に感謝する

 

彼はそんな私を信頼して愛してくれている

私も彼はそんなことをする人ではないと信頼して愛している

 

だからこの信頼が崩れ去った途端

アリス達のように一瞬にして

愛し合う二人は別れる運命になる

 

浮気を受け入れられないその気持ちも

彼女なら許してくれると甘えてしまったその気持ちも

どちらもよくわかる

 

付き合いが長くなれば長くなるほど

愛する人が当たり前の存在になってゆく

そんな時、私たちは別れる時のことなど考えない

 

「魂の音符」は私たちの別れを擬似体験させてくれた

あの切なさと途方も無い悲しみ

安定しているようで不安定なこの関係を

現実でそうなる前に知らせてくれたのだ

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とても際どいエッセイだなあ

こんなに正直に自分の気持ち書くと

引かれそうだ

それでもこんな先鋭なエッセイも

書いてみたくなる

夜が滲んで

本を閉じたその後に

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