打ち明けなかった恋心

久しぶりに再開したのは夢の中だった。

ずっと昔、私は彼のことが好きだった。

 

渡り廊下ですれ違い、ふと後を振り向いた時彼と目が合った。

あの時私は両想いを確信したのだけれど、いつも恋愛に対して猪突猛進な私はその時だけは、多くの恋する乙女がそうするように木の影から彼の姿を見ることしかできなかったのである。

 

久しぶりに夢で再開した彼は6年前と何も変わっていなかった。

私が毎日夢見たように、彼は私の手を取って、そして夢から覚めてしまった。

ドキドキだけが胸に残って、私はこの世界に戻ってきたらしい。

 

今もし彼に偶然会えたなら、私はあの頃の胸の内を彼に話すだろうか。

電車に乗ってたら、彼が乗ってきて(彼の最寄り駅は三つ都会側)「あれ、さくちゃん?久しぶりじゃん!」と言い、私はイヤホンを外して「えー!ちょー偶然!まじお久だねっ」と頭ではわかっているのだけれどお淑やかとは反対に照れ隠しに大袈裟に驚いてみせて、他愛のない会話を開始するのだ。

 

そして高校時代の思い出に盛り上がり、お互いに流れた月日を肌に感じた頃に

「実はね、私あなたのこと好きだったのよ。高校生の時」と打ち明ける。

「俺も好きだった」と言われれば嬉しいし、「えー!そうだったのっ全く気がつかなかったよ」と言われればやっぱり少し悲しい。

私の予想では後者を言いそうだ。いかにもいいそうな顔をしているのだ彼は。そうしたら、高校時代の私に向かって「とほほ」と困り笑いを向けるしかない。

 

まあしかしよく考えてみれば、それをしたところで何も変わらないのだ。ただ私がずっと秘密にしていた胸の内を伝えられるだけで、現実が何か変わるわけでもないし、その後一生会わないことを知っている私たちは残された時間をその電車の刻む音で感じるだけである。

 

モテない私はその時間の許す限り、私がいかにあなたのことを好きだったかを冗談交えて軽快に語るのだろう。

 

彼は朝学校に来ると、なぜか校舎の中庭のベンチで本を読んでいた。

何を考えてそんなベタな青春漫画のワンシーンみたいなことをしているのか知らなかったが、一早くそれを見つけた私は、本を読んでいる彼を二階の渡り廊下から見ていた。

担任の先生が偶然通りかかって「何をやってるんだ」と聞いてきたので「好きな人を見ています」と答えた。

クラスの皆も私が彼を見に行っていることを知って度々一緒に見にきていた。

先生や友達には言えるのに、彼には言えなかった。

模試の帰りに、偶然(を装って)彼と帰ることになったが、運良く雨が降ってきて、運良く彼が傘を持っていなくて、運良く彼の友達が空気の読める人だったので、運良く私たちは相合い傘をした。

私の胸は張り裂けそうで、今にも吐きそうで、この時間が早く終われとも永遠に続けとも思った。

 

彼の笑い声が廊下に響けば、次の瞬間、私は席にはいなかった。

彼の眼差しが私に向けられれば、私は俯いてろくに話もできなかった。

つり革にぶら下がる彼の手がこの世で一番綺麗だと思っていた。

 

というようなことをペラペラと話し「あ、私この駅で降りるわ。え?うん、池袋まで行くんだけど。パニックだから急行乗れないのよ。そう、だから乗り換えんの。あ、じゃあ、ごめんね私ばっかり喋っちゃって。うん、またね!バイバイ」と電車を降りる。

 

でも私は、モテる女はそういうことをしないと知ったので、全て打ち明けないかもしれない。

他愛のない世間話に花を咲かせて、「あ、私この駅で降りるの。うん、じゃあまたどこかで。」とちょまちょまあるいて駅のホームに降りて振り向く。そして笑顔で手を振ると、彼を乗せた電車はスピードを上げて行ってしまうのだ。

 

打ち明けない恋愛の方が、いい思い出だ。

打ち明けてしまった恋愛は、申し訳ないほどに相手の顔さえ思い出せない。

だから唯一打ち明けられなかった彼には、このまま一生打ち明けないままでいようかしらん。

 

一生会わないかもしれないけど。

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