ハタチの誕生日に彼が沖縄に連れて行ってくれた
付き合って半年頃だったと思うが、もう気の知れた仲になっており、都内で一泊して沖縄で二泊三日そして都内に帰ってきてもう一泊の四泊五日はそんなに苦ではなかったが、さすがに最後、都内に帰ってきた時には疲れがどっと出てちょっとばかり不機嫌になってしまっていた
まあ、そんなことはさておき私の彼はとても優しいので
旅先での車や宿の手配、二泊三日の旅行プランを念入りに調べ上げ、当日を迎えたわけであった
一方、(今でもそうだが)言われるがままで何も知らずについていくだけの私は、彼の運転を危ないなどと本気で怒ってみたり、トイレに行きたいのに渋滞にはまって「漏れてしまう」と焦らせてみたり、何もしないだけではなくいつも迷惑ばかりかけていた
そんな沖縄旅行だったが、私は高校時代に修学旅行で来たことがあったので懐古的な感情もあり、ひとつひとつの瞬間にときめいていた
修学旅行で来た時は、リゾート地というよりは戦争の悲惨さを知るといった意味の方が大きく感じ、私にとって少々辛い思い出もある旅行だった
それでも、友人と行った砂浜にもう一度彼と踏み入れた際には矢張り感激のため息ばかりが溢れた
残波のホテル前に広がるビーチについたのは、ちょうど陽の入る時刻で遠い水平線に沈む夕日をただただ彼と見ていたのだが、まだ乙女心のあった私は「あの夕日が沈む前に彼に好きだと言おう。そうじゃなければなんか別れてしまう気がする。絶対に言おう。言おう、言おう」と勝手に迷信めいたものを作り、いつも言っている2文字がなぜか今だけは恥ずかしくて言えないのを、彼の手を握ることでごまかしていたが、勝手に「好きと言わないと別れてしまうかも」と思い込んでいたために、本当に夕日がもう微かに海の上から見える時刻になった時に「好き」とつぶやいたのであった
思った通り、彼は少しはにかみ、私も恥ずかしく俯いてしばらくした後ホテルに戻ったのであった
そんな素敵な思い出を過ごした残波のビーチだったが、夜になると矢張り高校の時の戦争の説明が鮮明に浮かんで、この美しいビーチにも敵軍が攻め込んで来たのではないかなどと考え始めてしまい、終始震えて夜を過ごしたのだった
何事もなく朝を迎えて、カーテンを広げた時の海の雄大さは忘れられない
夕刻とはまた違った清々しい気分に、夜中の恐ろしい妄想など忘れていた
沖縄は車がないとどこにも行けない
彼の借りたレンタカーで様々な名所を巡っていたが、その時聴いていた音楽がビーチボーイズだった
本当はハワイやカリブ海で聴きたいが、沖縄だって立派な南国であるから音楽でも気分を上げようということでビーチボーイズの『カルフォルニアガールズ』『ココモ』などを聴きながら海岸沿いをドライブした
さて、ユーミンの曲に『甘い予感』というものがあるが、これを聴くとこの沖縄旅行を思い出さずにはいられない
[あなたの耳の向こう夕日が綺麗ね
息をかけたら消えそう
今から私たちのハートは滑り始めるの甘い世界へ
(中略)
ふとつけたカーラジオ
流れて来たのはビーチボーイズ
潮が引くように愛も消えるって
誰が最初言い出したの私信じない]
あれ、もしかして私たちの沖縄旅行を元に作ってるのかしら?なんてほどにぴったりなのだ
このビーチボーイズという固有名詞を入れたのは、ある意味挑戦だが私にとってはドンピシャに当てはまったので、入れてくれてありがとうという感じだ
しかも、付き合って半年という甘々な時期という部分も重なり、とにかくのこの歌は私のために作られたのだと信じている
あの沖縄の夕陽の中で告げた「好き」という言葉がずっと忘れられずに
ビーチボーイズとユーミンのおかげであの頃の若々しい、初々しい私に戻れるような気がする深夜一時であった